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2019年7月21日日曜日

NHK『沁(し)みる夜汽車』

 昨夜、7月20日、BS1スペシャル『沁(し)みる夜汽車 2019夏』が放送された。NHKのwebで次のように紹介されている番組だ。

寝入りばなの一時、旅情ある夜行列車がゆく。鉄道にまつわる素敵なお話、心に染み入るエピソードを一日のおわりにお届け。出会い、別れ、日々の営み。鉄道はそれぞれの人生にとって大切な役割を担っている。その中でも、人々の心に“沁みる”物語を取り上げご紹介していく。番組は駅や路線にまつわる心温まるストーリー、本当にあった「沁みる話」を現場取材のドキュメンタリー部分と再現イメージで構成していく。

 制作者側から“沁みる”物語を強調されると、少し引いてしまう人が多いかもしれないが、この『沁(し)みる夜汽車』は僕のようなすれっからしの心にも沁みてきた。

 「沁」は常用外漢字なので「(し)みる」と読み仮名が当てられている。そのような表記を避けるために他の字で代用することをしないで、この「沁」の字をあくまで使ったことには意味がある。漢字の形はまさしく文字通りである。「氵」と「心」が織り込まれている。「氵」はそのまま「涙」と捉えてもいい。あるいは何か心の中で流れていくもの、静かに流動するものとも考えられる。なにかが心の中を流れていく。それが「沁みる」なにかなのだろう。

 昨夜の五つの物語はどれも素晴らしかったのだが、「親子をつなぐ鉄道画~西武鉄道~」「50歳からの再出発~紀州鉄道~」がとりわけ沁みてきた。ネタバレになってしまうので内容には触れないが、親と子のすれ違いの行方を追う物語であった。

 今回の番組は、4月に放送された『沁(し)みる夜汽車』の続編である。4月放送版の第1話は「49歳差の友情~JR中央線~」だった。5年前のJR中央線が舞台。山梨から東京に単身赴任してきた56歳の男性が、電車の中で具合が悪くなった小学1年生の男子を助けたことから交流が始まる。49歳の差を超えた不思議な友情の物語。あたたかくてやわらかなものが沁みてくる。

 題名に「夜汽車」とあるが、「夜汽車」が舞台となっているわけではない。タイトルバックなどの映像として流されていて、物語全体の象徴として使われている。その夜汽車のシーンを見ると、志村正彦・フジファブリックの『夜汽車』が僕の心の中で再生されてくる。


  長いトンネルを抜ける 見知らぬ街を進む
  夜は更けていく 明かりは徐々に少なくなる

  話し疲れたあなたは 眠りの森へ行く

  夜汽車が峠を越える頃 そっと
  静かにあなたに本当の事を言おう

 
 この歌についてはもう何度か書いてきた。新たに付加できることもないのだが、「FAB LIST I - 2004~2009」投票に関連して、歌の完璧な叙情性という観点からすると、『夜汽車』はベスト3に入る作品であろう。
 志村の歌う「夜汽車」の物語は、具体的な出来事としては語られることがない。「長いトンネル」「見知らぬ街」「夜」「明かり」「峠」と、通り過ぎる場と時が描かれるだけである。
 「眠りの森へ行く」「あなた」に「本当の事を言おう」とする歌の主体。主体の想いそのものが叙情に純化されて、聴く者に静かに届けられる。聴く者の心に沁みてくる。
 なにかが心の中を静かに深く流れていく。それが志村正彦の叙情である。


 BS1スペシャル『沁(し)みる夜汽車』はもともと一話10分の作品。昨夜は五本分まとめての総集編だった。明日7月22日午後10時40分から一話ずつNHKBS1で放送される。

2 件のコメント:

  1. 何色も染まらない心が、沁みる物語を。
    偶然なこのコメントに心揺さぶられる。
    富士吉田に戻り、志村クンの歌聴いてみよう!
    と、改めて思いました。高山

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  2. コメントありがとうございました。(今日気づいたので、5ヶ月も経ってからの返信となります。すみませんでした)
    「富士吉田に戻り、志村クンの歌聴いてみよう!」とあるので、もしかしたら富士吉田が故郷ということでしょうか。僕は甲府に住んでいますが、志村さんの『夜汽車』を聴くと、東京にいた頃に山梨へ帰郷した思い出がいろいろと浮かんできます。富士吉田で聴く志村クンの歌は、かけがえのないものですね。

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