最上階はどうやら三階の上の屋根裏空間を利用して作ったようだ。壁面にペソアの写真がたくさんコラージュされている。ペソアとその異名が増殖している感覚だ。ディスプレー装置がペソアの生涯を映し出す。グラフィックな表示や動画に工夫があり、洗練された展示だった。
『不安の書』156章で、「複数の人格」についてこのように書かれてある。
自分のなかにわたしはさまざまな人格を創造した。たえず複数の人格を創造している。それぞれのわたしの夢は見られるとすぐに、たちまち別な人物に化身し、夢見るようになり、わたしではなくなる。
創造しようとして、わたしは自分を破壊した。自分のなかで自分をこれほど外面化したので、自分のなかではわたしは外的にしか存在しない。わたしは、さまざまな俳優がさまざまな芝居を演じながら通りぬける生きた舞台なのだ。
抽象的な表現でとらえにくい。末尾にある、「さまざまな俳優がさまざまな芝居を演じながら通りぬける生きた舞台」としての「わたし」という喩えが、それでもまだ分かりやすいだろうか。この展示空間自体がペソアの複数の人格の「舞台」のような気がした。
展示室には、数は少ないが、眼鏡などの愛用の品もあった。
三階に降りると会議室があり、ここで朗読会などのイベントが開かれるようだ。小さくも大きくもなく程良い規模だ。ハットにコート姿のかわいらしい人形もあった。これもペソアの分身だ。人形化やキャラクター化されているのは、彼が愛されている証拠だろうが。
二階に下りると、ペソアの家族の写真展示があった。小さな写真スタンドによるさりげない演出だが、やはりセンスがいい。
吹き抜けの空間の向こう側には図書室や資料室があるようだ。
ペソア愛用のタイプライターもあった。高価なものゆえ自分では買えなかったので、勤め先の機器を使っていた。それを収集し保管したのだろう。
最上階から降りてくる動線であり、空間の構成が複雑なので、部屋の階や配置の記憶があいまいになってしまった。記述が間違えているかもしれないことをお断りする。
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