ページ

2021年2月19日金曜日

映画『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』

  昨日、甲府のシアターセントラルBe館で、映画『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』を見てきた。

 ロビー・ロバートソンの自伝を原作に、ザ・バンド(THE BAND)の誕生から1976年の解散ライブ『The Last Waltz』までの足跡を追ったドキュメンタリー映画。原題は『ONCE WERE BROTHERS:ROBBIE ROBERTSON AND THE BAND』。「ROBBIE ROBERTSON AND THE BAND」とあるように、ロビー・ロバートソンとその妻の視点からのTHE BANDの物語だった。

 僕がロックを聴き始めた1970年代の前半、THE BANDはすでに伝説のような存在だった。アメリカのルーツ・ミュージック、ロックンロール・カントリー・フォーク・R&Bなどを織りまぜたロックの創始者だった。ボブ・ディランのバックバンドとしての知名度も高かった。そのような音楽を生み出した彼らの生活スタイル、ウッドストックという地、ザ・バンドとボブ・ディランが借りていた家「ビッグ・ピンク」は、音楽雑誌などでよく記事にされていた。当時の僕たちは、彼らの音楽の総体を「知識」として受けとっていたように思う。

  今の若者が、彼らのデビュー曲的な位置づけである1968年の「ザ・ウェイト」(The Weight)を聴くとどう感じるだろうか。アメリカのルーツ・ロックとして普通に聞こえてくるかもしれないが、60年代の後半から70年代の前半の時代においては、斬新な音楽だった。「The Band on MV」のサイトから「The Weight (Remastered)」を紹介したい。冒頭部の歌詞も引用する。



 The Weight      作詞:Robbie Robertson

     I pulled into Nazareth, I was feelin' about half past dead
     Just need to find a place where I can lay my head
     'Hey, mister, can you tell me where a man might find a bed?'
      He just grinned and shook my hand and, 'No', was all he said

      Take a load off Fanny
      Take a load for free
      Take a load off Fanny
      And (and)(and)you put the load right on me
      ………

 俺はナザレにたどりついた
 半ば死んだように感じていた
 横になれるところが欲しかった
 「旦那、休めるところを教えてくれないか」
 彼はにやりと笑って握手して
 「ない」とだけ言った

 重荷を下ろせよ、ファニー
 自由に身軽になれよ
 重荷を下ろせよ、ファニー
 そうして重荷を俺に載せなよ

 この歌詞は難しい。自分なりに訳してみた。映画では、この「Nazareth」の意外な由来についても述べられている。『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』を見終わった後「The Weight 」の歌詞を振り返ると、いろいろな思いが浮かんでくる。
 映像は当時分からなかったことを丹念に描いている。ロビー・ロバートソンの生い立ちと音楽に目覚める過程、ロニー・ホーキンス のバックバンドとして活動していた時代、ザ・ホークスの時代、ボブ・ディランとの出会いや酷評されたツアー。そしてザ・バンドの誕生と活躍の時代。メンバーの友情と確執。そして、そのすべては1976年の解散ライブ『The Last Waltz』に収束していく。

 僕のザ・バンドとの出会いは、彼らの単独作品というよりも、ボブ・ディランが1974年にリリースした『プラネット・ウェイヴズ』(Planet Waves)を通してだった。ボブ・ディランがザ・バンドと創り上げたこのアルバムは、いまだに僕が最も好きなディランの作品であり、ザ・バンドの音楽、演奏である。映画では、ディランがアサイラム・レーベルに移籍した裏話も語られていた。

 映画を見ていくうちに、僕自身が四十数年前の70年代前半から半ばまでの「ロックの時代」にワープしていった。タイトルバックが流れると、しばらくの間、その残像が静かにまだ回っていて、今ここに、自分が戻りきれていない心持ちになった。

 リチャード・マニュエル、リック・ダンコ、リヴォン・ヘルムはすでに亡くなった。ロビー・ロバートソンとガース・ハドソンは健在である。この映画用にガース・ハドソンのインタビューも撮影されたそうだが、結局、使用されなかった。彼は沈黙を守ったのだろう。

 生き残った者の視点で、ロビー・ロバートソンはザ・バンドの歴史物語を綴る。他のメンバー四人からの視点はほとんどない。メンバー間の確執の真実は分からない。ロビー・ロバートソンは正しい人なのだろう。しかし、義しいのだろうか。その問いかけがずっと心に残っている。

 ロビー・ロバートソンその人というよりも、この映画の語り方そのものにある種の残酷さや非情さを感じた。バンドメンバーの生と死を分かつ「時」の残酷さ。あるはずの語られる物語が語られることはない。そのことを胸に刻んだ。

 それでもこの映画は「ロックの時代」の記録の一つとして見る価値がある。25日(木)までシアターセントラルBe館で上映される。


0 件のコメント:

コメントを投稿