『唇のソレ』(詞・曲:志村正彦)は、2005年11月リリースの2ndアルバム『FAB FOX』の収録曲として発表された。ライブ映像が『Live at 両国国技館』と『Live at 富士五湖文化センター』に収められている。
この愛すべき曲の歌詞を引用しよう。
手も目も鼻、耳も 背も髪、足、胸も
どれほど綺麗でも意味ない
とにもかくにもそう
唇の脇の素敵なホクロ 僕はそれだけでもう…
Oh 世界の景色はバラ色
この真っ赤な花束あげよう
いつかはきっと二人 歳とってしまうものかもしれない
それでもやっぱそれでいてやっぱり唇のソレがいい!
さあ 終わらないレースの幕開け
もう 世界の景色はバラ色
この真っ赤な花束あげよう
いつかはきっと二人 歳とってしまうものかもしれない
それでもやっぱそれでいてやっぱり唇のソレがいい!
〈手〉〈目〉〈鼻〉〈耳〉〈背〉〈髪〉〈足〉〈胸〉というように、身体の部位が〈も〉という助詞によって連鎖され、〈どれほど綺麗でも〉、〈意味〉が〈ない〉と歌われる。
綺麗な身体の部位に変わって、歌の主体〈僕〉が賞賛するのは〈唇の脇の素敵なホクロ〉。〈とにもかくにもそう〉〈それだけでもう…〉と、〈も〉に続いて〈そ〉の音が登場する。この〈そ〉の音が導くようにして、〈唇のソレ〉が召喚される。〈それでも〉〈やっぱ〉〈それでいて〉〈やっぱり〉という反復が組み合わされることによって、次第に、〈唇の脇の素敵なホクロ〉は、〈唇のソレ〉としか言いようのない〈ソレ〉に変換されていく。
〈世界の景色〉は〈バラ色〉であり、〈僕〉は〈唇の脇の素敵なホクロ〉を持つ相手に〈真っ赤な花束〉をあげようとする。この〈二人〉は〈歳とってしまうものかもしれない〉のだが、〈僕〉は〈唇のソレがいい!〉と宣言する。
志村正彦は〈フジファブリック 『FAB FOX』インタビュー〉で、この曲について次のように述べている。
この曲は夢の中で作ったんですよ。夢の中でバンド練習をしてて、その時にみんなが弾いていた楽曲を憶えていて、でも夢から覚めたら演奏を忘れてしまうと思ったんで、夢の中のメンバーに「今夢の中にいるから、起きても忘れないように各パートを繰り返してくれ」って伝えて(笑)、それを全て憶えたら起きてテープレコーダーに入れて。その後、スタジオで練習している時にみんなに伝えて作っていきましたね。
インタビュアーの〈普段、現実的な夢を見る方ですか?突拍子もない夢を見る方ですか?〉という問いについてはこう語っている。
僕は両方見ますね。あの・・・、富士山噴火とか(笑)。あとは練習とか、バンド系の夢が多いですね。
夢の中でつくった曲。実に愉快だ。『唇のソレ』はバンド系の夢の作曲篇になるだろうか。富士山噴火のように、〈ソレ〉が噴火しているようでもある。
『唇のソレ』には確かに夢の中の祝祭歌の雰囲気がある。
この曲は独特のリズム感が失踪する。最後に近づくと、志村の声とサウンドの音がもつれ合うような感じになる。夢の中に出てくる〈ソレ〉が絡み合うかのように。
[この項続く]
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