一昨日の深夜、テレビをつけながらPCで仕事をしていると、志村正彦の声が聞こえてきた。『若者のすべて』だった。
テレビ画面を見ると、夜の空間にきらめく花火の映像。上空から見下ろすような視点の花火の光に魅入ってしまった。ドローンの撮影かもしれない。テレビのチャンネルを確認すると6チャンネル、地元局のUTYテレビ山梨の放送だ。あの「STAY HOME」の新しいヴァージョンかもしれない。すぐに「神明の花火 ~平和への祈り~」という表示が出てきた。9月、この局で『世界に届け「神明花火」平和への祈り』が放送され、『若者のすべて』をBGMにした花火の映像が流された。そうこうするうちにエンディングを迎えた。画面の左側に「やまなしドローン紀行」とあるので、この花火の映像はその一つかもしれない。そして、画面の右側に、「医療従事者の皆様に感謝」「50TH UバクUTY」の文字が現れた。間違いなく、志村正彦・フジファブリック『若者のすべて』を取り上げた「STAY HOME」の「神明の花火」ヴァージョンだった。すぐにネットで調べてみた。これを制作したUTYのTVプロデューサー岩崎亮氏のツイート(@iwasaki_tvp)に制作の経緯が述べられ、映像(権限の関係で音楽はないのが残念だが)もUPされておる。
二週間ほど前、この春に流された『若者のすべて』の「STAY HOME」CMが山梨広告賞の「電波広告の部テレビCM30秒以上部門」の最優秀賞を受賞したことは新聞で読んでいた。その記念に新しいヴァージョンを作成したようだ。富士吉田のクローン映像によるヴァージョンは、春と秋冬の映像が織り込まれている。最後の雪を薄く被って白く輝く富士山が美しい。志村ファンにとっては年末の思いがけないプレゼントである。
毎年大晦日にこのブログを書いているのだが、振り返ると、これまで最も短い一年だった。コロナ禍の現実に対応するために仕事に追われる毎日だった。記憶も時間の感覚もおかしくなっている。このブログの更新も滞った。音楽をじっくりと聴く機会もほとんどなかったが、志村正彦・フジファブリックの楽曲の中でそれでも繰り返した曲が一つある。『夜汽車』である。youtubeに両国国技館のライブ映像がある。
月並みな言い方しかできないのがもどかしいが、この歌の「叙情性」は群を抜いてすばらしい。日本語ロックの中でこれほどの叙情に達した歌はないのではないか。志村の想いが心の深くに染み込んでくる。
『夜汽車』は「静かにあなたに本当の事を言おう」と歌い終わる。あなたに「本当の事」を語りはじめる、その前で歌は終わってしまう。「本当の事」を語ることはない。語ることができない。あるいは語りたくない。語ることから遠ざかることで、この歌が始まっている。そのことがこの歌の叙情性を支えている。
何かを歌うことと何かを語ることとは、言葉の表現としてもちろん近い位置にある。しかし本当は、この二つの間には遠い遠い隔たりがある。語ることができないときに、失われているときに、むしろ、叙情の歌は成立する。人は語ることのできないものを、それでもどうしても伝えたくなったときに、歌い始めるのかもしれない。志村正彦の『夜汽車』がそのことを「そっと 静かに」教えてくれる。
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