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2016年6月3日金曜日

大西洋、リスボンの街 [ペソア 2]

 昨年の夏、ポルトガルに出かけた。8日間のツアーだった。準備にかける時間がなく、土日と合わせてこの日数が夏季休暇の限度なので、旅行会社の企画が最良の選択となる。成田からフランクフルト経由でリスボンへ。乗り換えに6時間ほど要したので、ホテル到着まで一日近くかかった。ユーラシアの西の果ての国はやはり遠い。

 リスボンに一泊後、ポルト、コインブラなどを訪れ、五日目、ロカ岬を経由してリスボンに戻り、六日目に市街を歩いた。
 旅行の途中で印象深い光景に出会った。しかし、ここはそれを残す場ではないので省くが、ロカ岬(Cabo da Roca)、ユーラシア大陸最西端の岬から見た大西洋の風景は記しておきたい。


ロカ岬から眺める大西洋

 しばらくの間、海を眺めた。水平線はかすかに弧を描いている。ユーラシア大陸の東の果てに住む者として、この風景の果てにアメリカ大陸があり、その果ての果てに、再びユーラシアの極東の地がある、そのような感慨にとらわれた。


カモンイスの碑文
  岬の石碑には、ポルトガルの国民詩人ルイス・デ・カモンイスの叙事詩の一節が刻まれている。

 Onde a terra se acaba e o mar começa
  ここに地終わり海始まる

 この場に立つと、「地」が終わるという感覚が何となく伝わる。「海」は始まるというよりも、海の「果て」がただただ広がっている、その途方もなさを感じる。

 この後、ロカ岬からシントラを経由してリスボンへ。夕方になったが、夏の街はまだまだ明るい。



 エドゥアルド7世公園の展望台から眺める。中央に立つのはポンバル侯爵の像と円柱。その向こう側が中心街。そしてテージョ川。大西洋へと流れていく。
 うす曇りのせいか日差しは強くない。暑さもそれほどでもない。美しい風景が広がる。
 リスボン。フェルナンド・ペソアの街だ。

  ペソアがリスボンを描いた詩を探した。『ポルトガルの海―フェルナンド・ペソア詩選』(池上岑夫訳、彩流社1985/09)の中に、ペソアの異名、アルヴァロ・デ・カンポス (Álvaro de Campos)の詩『Lisbon Revisited (1923)』があった。その一部を、原詩の該当箇所(ネット上のペソア・アーカイブから添付)と共に引いて、この頁を閉じたい。 

Ó céu azul — o mesmo da minha infância —
Eterna verdade vazia e perfeita!
Ó macio Tejo ancestral e mudo,
Pequena verdade onde o céu se reflete!
Ó mágoa revisitada, Lisboa de outrora de hoje!
Nada me dais, nada me tirais, nada sois que eu me sinta.


    青い空—子供の頃とかわらぬ空—
  虚ろにして完璧なる永遠の真実よ
  遠い昔から黙して流れる優しいテージョ川
  空を映す小さな真実よ
  ふたたびおれの訪れた苦悩 昔にかわらぬ現在のリスボンよ
  お前はなにもくれぬ 奪わぬ お前は無なるもの そしてそれこそ
   おれの感じているおれだ
        (   池上岑夫訳 )

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