8月22日(金)夜7時からTBSで『この歌詞が刺さった!グッとフレーズ』第21弾の3時間スペシャルが放送された。夏の後半という時期に合わせ「夏の終わりに聴きたい“グッとフレーズ”」の特集があった。
今回の出演者は、MCの加藤浩次(極楽とんぼ)、アーティストゲストのデーモン閣下(聖飢魔Ⅱ)・田邊駿一(BLUE ENCOUNT)・矢井田瞳、スタジオゲストの影山優佳・川村エミコ(たんぽぽ)・末澤誠也(Aぇ! group)・土田晃之、・矢作兼(おぎやはぎ)、VTRゲストの狩野英孝・橋本環奈・原菜乃華・間宮祥太朗。
番組の半ば頃に「夏の終わりに聴きたい」というコーナーがあり、ZONEの「secret base~君がくれたもの~」、山下達郎「さよなら夏の日」、フジファブリック「若者のすべて」、米津玄師「灰色と青」(+菅田将暉)、松任谷由実「Hello, my friend」などが選ばれていた。
「若者のすべて」を取り上げた部分を簡潔に紹介したい。テロップやクレジットの言葉は〈〉で括る。
街頭インタビューでのコメントの後で、イントロが始まり、〈若者のすべて フジファブリック/ユニバーサル ミュージック〉というクレジットが示され、「若者のすべて」のミュージックビデオが流され、志村正彦が歌う姿が映し出された。歌詞のテロップが横書きに縦書きにと変わり、フォントの大きさも変化した。〈グッとフレーズ〉という字と共に、鮮明な黄色の字で〈ないかな ないよな きっとね いないよな〉が縦書きで、〈会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ〉が横書きで表示された。
次に下記の歌詞が一面に示され、街頭インタビューのコメントが加えられた。
―グッとフレーズ-
ないかな ないよな
きっとね いないよな
会ったら言えるかな
まぶた閉じて浮かべているよ
作詞 志村正彦
ここで初めて作詞者の「志村正彦」の名が登場した。やはり作詞者の名は必須である。
MCやゲストの話の後で、ナレーターが語り始めた。そのテロップを記したい。
〈夏の恋に期待するも〉
〈結局何もなく終わってしまう〉
〈誰もが共感できる経験を歌詞に〉
〈2番 主人公に嬉しい展開が!〉
続いて、2番のミュージックビデオと〈ないかな ないよな なんてね 思ってた/まいったな まいったな 話すことに迷うな〉が表示され、この歌詞をまとめた画面に切り替わった。
―グッとフレーズ-
ないかな ないよな
なんてね 思ってた
まいったな まいったな
話すことに迷うな
作詞 志村正彦
ナレーターが〈好きな人とまさかの遭遇〉と語った。
この後、MCやゲストの間でこの場面をめぐっていろいろな話が出るのだが、印象深かった箇所のテロップを書き写す。
加藤浩次 〈これは声をかけたんですかね?〉
末澤誠也 〈どっちでも捉えられる〉
加藤浩次 〈どっちですか皆さん〉
土田晃之 〈この時点では話しかけてない〉
川村エミコ 〈私は話しかけてる〉〈話しかけて一緒に花火を見てる〉
〈でも何も言えなくて〉〈関係はどうなるのかな?〉
(変わるのかな)〈同じ空見てるな〉
……
川村エミコ 〈花火の音が間を埋めてくれて〉
〈助けてくれる情景が浮かぶ〉
川村エミコの最後のコメントに説得力があった。二人が再会したとしてもあまり言葉を交わすことがなく、その間を花火の音が埋めてくれて、沈黙を助けてくれる。確かにそのような情景も浮かんでくる。
今回の「若者のすべて」の歌詞考察は、〈ないかな ないよな〉部分のフレーズが1番から2番へ、〈きっとね いないよな〉⇒〈なんてね思ってた〉、〈会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ〉⇒〈まいったな まいったな 話すことに迷うな〉と転換していくことに焦点を当てていた。この転換されたフレーズが「若者のすべて」のキーフレーズの一つであり、この番組で言う〈グッとフレーズ〉であろう。これまで「若者のすべて」の歌詞の素晴らしさに触れた番組はいくつもあったが、今回の番組のようにこの歌詞の転換とそれによる歌詞の意味の展開について取り上げるものはほとんどなかったように思う。
このシリーズ番組を振り返ると、2022年12月29日放送の『この歌詞が刺さった!グッとフレーズ〜私を支えた歌詞SP2022〜』でも「若者のすべて」が取り上げられた。この時は、ナレーターが「実はこの曲を作詞作曲したボーカルの志村正彦さんはこの曲をリリースした2年後、29歳の若さで亡くなったのですが、生前この曲についてこう語っていました」という説明が入り(テロップでは〈作詞・作曲Vo.志村正彦さん 「若者のすべて」リリースの2年後… 2009年12月24日29歳で急逝〉と表示)、両国国技館ライブでの志村のMC〈センチメンタルになった日だったりとか 人を結果的に裏切ることになってしまった日 色んな日があると思うんですけども そんな日の度に 立ち止まって色々考えてた それはちょっと勿体ない気がしてきて 歩きながら 感傷に 浸るっていうのが 得じゃないかなって思って 止まっているより歩きながら悩んで 一生たぶん死ぬまで 楽しく過ごした方がいいんじゃないかなということに 26、27歳になってようやく気づきまして そういう曲を作ったわけであります〉がテロップで示された。
ナレータは続けて「そして志村さんはその思いをこの二行のフレーズに込めたといいます」と話した。志村の歌声と次のテロップが表示された。
―グッとフレ ーズ―
すりむいたまま 僕はそっと歩き出して
つまり、2022年12月の番組では、〈すりむいたまま 僕はそっと歩き出して〉が〈グッとフレ ーズ〉に、今回2025年8月の番組では〈ないかな ないよな きっとね いないよな/会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ〉〈ないかな ないよな なんてね 思ってた/まいったな まいったな 話すことに迷うな〉という〈ないかな ないよな〉をめぐる対比的な歌詞が〈グッとフレ ーズ〉にされている。TBS『この歌詞が刺さった!グッとフレーズ』シリーズは毎回「若者のすべて」の歌詞を丁寧に考察していることが分かる。
「若者のすべて」には三つのキーフレーズ、〈グッとフレ ーズ〉があるだろう。TBS番組が示したように〈すりむいたまま 僕はそっと歩き出して〉のフレーズと〈ないかな ないよな〉をめぐる対比的なフレーズ、その二つに〈最後の花火〉〈最後の最後の花火〉という対になるフレーズを加えると三つになる。この三つのフレーズを複合的に交錯させながら、聴き手はこの歌の物語を心の中のスクリーンに投影していく。これが「若者のすべて」の尽きない魅力となっている。
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