志村正彦・フジファブリック「お月様のっぺらぼう」の音源は、2019年12月23日から、「フジファブリック Official Channel」で公開されている。これはありがたい。
お月様のっぺらぼう · FUJIFABRIC
アラモード 2003 Song-Crux Released on: 2003-06-21
Lyricist: Masahiko Shimura Composer: Masahiko Shimura
歌詞をすべて引用しよう。行の番号と同一の歌詞はa~iのアルファベットを付ける。
お月様のっぺらぼう 作詞・作曲: 志村正彦
1 a 眠気覚ましにと 飴一つ
2 b その場しのぎかな…いまひとつ
3 c 俺、とうとう横になって ウトウトして
4 d 俺、今夜も一人旅をする!
5 e あー ルナルナ お月様のっぺらぼう
6 f 嵐がやって来そうな空模様
7 g 雨の匂いかな…流れ込む
8 h 俺、相当恐くなって窓を閉める
9 d 俺、今夜も一人旅をする!
10 i あの空を見た 遠くの空には 虹がさした
11 i あの空を見た 遠くの空には 虹がさした
12 a 眠気覚ましにと 飴一つ
13 b その場しのぎかな…いまひとつ
14 c 俺、とうとう横になって ウトウトして
15 d 俺、今夜も一人旅をする!
16 e あー ルナルナ お月様のっぺらぼう
17 e あー ルナルナ お月様のっぺらぼう
「お月様のっぺらぼう」のサウンドは、イントロのフレーズがミニマル的にループしていく。歌詞の言葉もそのサウンドに乗って、ループのように連接していく。言葉の輪が循環していく。
第1行と第2行の末尾の〈飴一つ〉と〈いまひとつ〉。〈hitotsu〉の反復が、この歌詞の言葉のループの基調になっている。さらにこの〈hitotu〉は、第4行の〈今夜も一人旅をする〉の〈hitori〉に連接し、モチーフとしての《一人》を形成していく。
第3行の〈とうとう〉と〈ウトウト〉。〈toutou〉〈utouto〉の音の反転のような遊び。この音の戯れが催眠効果のようになって、歌の主体〈俺〉は〈今夜も一人旅をする〉。この夜の〈一人旅〉は睡眠中に見る《夢》のことであろう。〈も〉という助詞が使われているのは、この夜の〈一人旅〉が、毎夜、反復されていることを示す。
また、第3,4行と二度繰り返される〈俺〉と〈俺〉の〈ore〉〈ore〉も、音の響きが独特である。くぐもっているというのか抑制的というのか、一人称代名詞の機能を果たすというよりも、つなぎの音として使われた気もする。
第5行の〈ルナルナ〉。〈luna luna〉の繰り返し。〈お月様のっぺらぼう〉も〈おo〉〈のno〉〈ぼbo〉という〈o〉音がアクセントになっている。この言葉は、月の視覚的イメージを表すというよりも、音の戯れの感覚そのものを伝えるために選択されたのかもしれない。
第7行の〈雨〉〈ame〉は第1行の〈飴〉〈ame〉と、アクセントは異なるが、音の反復がある。第8,9行の〈俺〉〈俺〉は、第3,4行の〈俺〉〈俺〉と同等の効果を持つ。
第10,11行〈あの空を見た 遠くの空には 虹がさした〉はどう捉えたらよいだろうか。二つの可能性がある。ひとつは、〈俺〉が目覚めた後で日中の光景として〈あの空〉〈遠くの空〉〈虹〉を見た、というもの。もう一つは、〈俺〉が見た夢の中の光景であるというもの。
第1~4行のa.b.c.dの展開には、起承転結的な構造があり、第6~9行のf.g.h.dの展開も同様である。それぞれの起承転結を受ける、第5行〈あー ルナルナ お月様のっぺらぼう〉と第10,11行〈あの空を見た 遠くの空には 虹がさした〉は、対比的な関係を持つ。
第1~4行 a.b.c.d → 第5行 あー ルナルナ お月様のっぺらぼう
第6~9行 f.g.h.d → 第10,11行 あの空を見た 遠くの空には 虹がさした
この対比的な構造からすると、〈あー ルナルナ お月様のっぺらぼう〉の〈月〉は〈夜〉の〈一人旅〉の象徴であり、〈あの空を見た 遠くの空には 虹がさした〉の〈空〉の〈虹〉は、夢の中で見られた光景であるという解釈の方を取りたい。
〈俺〉の〈夜〉の〈一人旅〉は、夢の中で〈空〉の〈虹〉へと向かっていく。サウンドが転調され、コーラスも加わって、音が重厚になる。ライブでは照明の演出も転換される。言葉と音のループがここで重層化される。志村正彦、加藤慎一、金澤ダイスケ、渡辺隆之の四人のユニットの演奏が素晴らしい。
〈月〉と〈虹〉。太陽の光が月面で反射された月の光。太陽の光が大気の水滴の内部で反射された虹の光。光のイメージとしては対照的だが、太陽の光が反射されたものという共通項がある。〈虹〉のモチーフはやがて、2005年6月リリースのフジファブリック5枚目のジングル「虹」へと発展していく。
〈俺〉の〈一人旅〉は、〈夜〉から日中の〈空〉へ、〈月〉から〈虹〉へと向かう。そして、昼の〈空〉か〈夜〉からへ、〈虹〉から〈月〉へと戻っていくのだろう。そのようにして、ループが、循環していく。〈俺〉の〈一人旅〉は、毎夜、反復される。
志村正彦は、言葉の音としての戯れを使って歌詞を作った。言葉と音それぞれのループ、そして言葉と音の間のループによって、〈俺〉の物語を歌った。「お月様のっぺらぼう」は、インディーズ時代のきわめて独創的な作品である。