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2019年12月31日火曜日

2019年[志村正彦LN246]

 12月下旬になっても志村正彦・フジファブリックの関連番組は続いている。
 BSプレミアム「The Covers’Fes.2019」ではフジファブリックが『ひこうき雲』(荒井由実)カバーと『手紙』を演奏した。NHK甲府のラジオ番組「かいラジ」12月号『フジファブリック 志村正彦を語りつくす』を「らじる★らじる」で聴くことができた。昨夜はBSフジで『LIFE of FUJIFABRIC<完全版>』が放送された。この二つの番組から、富士ファブリック時代のメンバー、関わりの深かった音楽家、EMIのディレクタ-、様々な関係者、そして現在のメンバーの貴重な証言を得られた。今回はその証言に言及しないが今後活かす機会もあるだろう。

 今日で2019年が終わる。あらためて『「15周年」への違和感 [志村正彦LN243]』に寄せられた二人の方のコメントについて考えてみたい。
 最初の方は「声を上げなくとも違和感を感じている人、また、なんとか受け入れようと努力している人もたくさんいると思います」と書かれた。もうひとりの方は「私は志村さんがいなくなってから、現実を受け入れられずフジファブリックからは離れていて」「今年のMステを見てからまた志村さんの歌を聴き始めました」と述べられた。二人の素直で自然な想いに心を打たれた。二人とも志村正彦が健在だった時代の熱心なファンだと推測される。僕のような遅れてきたファンとは関わり方の深さが異なる。2009年からのこの十年の時の過ごし方もおのずから異なっている。

 『LIFE of FUJIFABRIC<完全版>』の最後に大阪城ホールを終えた三人のメンバーのインタビューがあった。彼らがある達成を得たことは確かだ。彼らの粘り強い活動があり、それを支えたファンの存在があった。そして、志村がのこした作品の力が大きかったことは間違いない。

 音楽の作り手・送り手、メンバーや事務所の観点からすると、「フジファブリック」の存続は当然の選択だっただろう。その結果が2019年を15周年とするプロジェクトまでつながった。
 しかし、音楽の聴き手・受け手は異なる。志村正彦のフジファブリックを愛した者の十年には複雑な軌跡がある。聴き続けた人、聴くことができないでいた人。継続を受け入れた人、受け入れようとした人、受け入れることができなかった人。聴き手一人ひとりのフジファブリックは異なる。フジファブリックの経験という時間も異なる。だからこそ少なくとも、音楽の聴き手にとっては「継続」が当然の自明の選択だとは言えない。「15周年」という捉え方は、聴き手一人ひとりの時間の差異を消し去ってしまう。

 フジファブリックは作り手だけのものではない。聴き手のものでもある。音楽だけでなくあらゆる芸術作品は作り手と受け手が共同で創造する。たとえば小説は作者と読者が創り出す。読者が読むという行為がなければ小説は成立しない。音楽も同様である。声や音、歌詞の言葉を聴いて受けとめて、自らの心と体で音楽を生成させる。その行為があってはじめて音楽は音楽として成立する。

 最後になるが、『LIFE of FUJIFABRIC<完全版>』の冒頭の映像について書いておきたいことがある。「ほんとうにフジファブリックを作ってくれた彼に感謝したいと思います」と山内総一郎が大阪城ホールで語るシーン。観客の拍手が続く中、志村正彦が座席にひとりで腰掛けている映像(両国国技館ライブでの撮影だろう)がインポーズされる。彼の眼差しと立ち上がり去ろうとしている姿。この冒頭シーンに続いて本編が始まっていく。そういう演出だった。
 この映像のモンタージュに番組制作者のどういう意図が込められているのかと考えこんでしまった。山内と志村の時空を超えた応答を演出したのか。それとも特別な意図はなかったのか。あるいは想像もできない別の意味が込められていたのか。演出の意図はつかめないが、強い違和感が残った。

 この番組だけではない。この一年間を通じて、志村正彦・フジファブリックに関する番組や音楽メディアの記事に違和感を覚えることが少なくなかった。貴重な証言や映像を得られた反面、番組や記事の構成に疑問を抱いた。「15周年」という視点を中心にある種の「物語」を描いていた。(このblogは批評的エッセイを試みている。率直な違和や疑問が批評の原点をつくる。)

 2020年はどういう年になるのか。志村正彦・フジファブリックの音源や映像が発売されることはあるのだろうか。昨年の大晦日には『シングルB面集 2004-2009』を独立したCDとして発売してほしいと書いた。今年実現しなかったので来年への願望としてここにふたたび記した。
 『セレナーデ』も『ルーティーン』もシングルB面集に収められている。この素晴らしい作品群をアルバムとしてリリースしていただきたい。

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