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2019年8月9日金曜日

『若者のすべて』の声と像(ミュージックステーション)[志村正彦LN228]

 今日8月9日、テレビ朝日「ミュージックステーション」にフジファブリックが初出演し、志村正彦作詞・作曲の『若者のすべて』を歌った。

 演奏の前に、『若者のすべて』、志村正彦、フジファブリックを紹介する時間があった。テロップとナレーションで構成されていたが、テロップだけを以下に記す。


フジファブリックが夏の名曲ライブ!
「若者のすべて」(07) 作詞・作曲:志村正彦

多くのアーテイストに愛される名曲
櫻井和寿 藤井フミヤ 槇原敬之 錚々たるアーティストがカバー

2009年12月24日
ボーカル&ギター志村正彦、急逝。

残された三人でバンドを存続
亡くなった志村正彦に代わりギターの山内総一郎がボーカルも担当
ロック界に確固たる地位を確立

デビュー15周年 志村正彦没後10年 Mステ初登場!
志村正彦の歌声とともにパフォーマンス!


 あくまで現在のフジファブリックからの視点ではあるが、簡潔に振り返っていた。伝えるべきことは伝えていた。この後、タモリと山内によるトークなどがあった。
 CM後に演奏が始まった。山内総一郎(Vo/G)、加藤慎一(B)、金澤ダイスケ(Key)、ゲストドラマー(ニコという方らしい)の四人編成。「志村正彦の歌声とともにパフォーマンス!」と予告されたからどのような演出になるのか、期待と不安が入り混じった気分で『若者のすべて』を聴くことになった。

 三人のメンバーともに緊張した表情。山内の声が幾分かこわばっている。Mステという番組でこの作品を歌う意味合いが迫ってくる。
 第1ブロックとその間奏の後で、「作詞作曲した志村正彦の過去映像と共演」というテロップが出て、おそらく『FAB BOX Ⅲ』収録の映像が流れる。志村が楽しそうに笑っているシーンだった。
 その後、いきなり、「すりむいたまま 僕はそっと歩き出して」という志村の声が始まる。映像が鮮明にになり、両国国技館ライブ時だと思われる志村の歌う姿が画面全体に現れた。この瞬間、心がかなり動かされた。どういう展開になっていくのだろうと想像するのもつかの間で、「歩き出して」のところでスタジオで歌う山内の映像と声がミックスされた。スタジオのスクリーンに志村の映像が投影されていることが分かった。
 「志村正彦の歌声とともにパフォーマンス!」と告げられたので、最先端の技術を作って加工された映像にでもなるのかなとも思っていたが、シンプルな手法による編集だった。奇を衒っていないという点ではこの手法は妥当であろう。

 しかし、違和感が残った。第1ブロックからいきなり最終パート近くの歌詞へと跳んでいったからである。ゴールデンタイムの放送という制約だろうか、5分ほどの曲を3分弱に縮められていた。
 歌詞を確認してみた。記録と記憶のために、歌われた部分を太字で歌われなかった部分をアンダーラインを引いて普通の字で示す。


  真夏のピークが去った 天気予報士がテレビで言ってた
  それでもいまだに街は 落ち着かないような 気がしている

  夕方5時のチャイムが 今日はなんだか胸に響いて
  「運命」なんて便利なものでぼんやりさせて

  最後の花火に今年もなったな
  何年経っても思い出してしまうな

  ないかな ないよな きっとね いないよな
  会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ

  世界の約束を知って それなりになって また戻って

  街灯の明かりがまた 一つ点いて 帰りを急ぐよ
  途切れた夢の続きをとり戻したくなって

  最後の花火に今年もなったな
  何年経っても思い出してしまうな

  ないかな ないよな きっとね いないよな
  会ったら言えるかな まぶた閉じて浮かべているよ

  すりむいたまま 僕はそっと歩き出して

  最後の花火に今年もなったな
  何年経っても思い出してしまうな

  ないかな ないよな なんてね 思ってた
  まいったな まいったな 話すことに迷うな

  最後の最後の花火が終わったら
  僕らは変わるかな 同じ空を見上げているよ


 要するに第2ブロックのすべてと第3ブロックの重要な部分が欠落していた。Mステという番組がいつもこのように尺を短くするのかどうかは知らないが、民放の音楽番組ではよくあることなのだろう。仕方がないことかもしれない、しかしそう言ってしまえば、この歌が損なわれる。だから仕方がないとは言いたくない。非常に残念であったと記しておく。

 『若者のすべて』は歌の主体の「語り」によって成立している作品である。その語りの枠組や構造はこのブログで何度も書いてきた。聴き手は、志村正彦の語りの声と言葉を一つ一つたどることによって、心の中のスクリーンに自由に物語を描いていく。「夏の名曲」として愛されているゆえんである。
 特に「ないかな ないよな なんてね 思ってた/まいったな まいったな 話すことに迷うな」という転換がなければ、「最後の最後の花火」と「僕らは変わるかな」が登場する必然性が失われる。語りの本質が損なわれる。

 このような疑問が残ったのだが、ミュージックステーションという長い伝統のある番組で取り上げられたのは、ファンの一人として率直にうれしかった。そして演奏終了時の山内、加藤、金澤の眼差しには志村正彦への想いが込められていた。三人にとっても特別な場所と時間だったのだろう。

 2019年の夏、志村正彦は、出演を希望していたというミュージックステーションで、「すりむいたまま 僕はそっと歩き出して」と歌った。そのように記憶したい。声と像は、歌い続けることができる。

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